ヘッダーバー

ホームツーバイフォー住宅の日記念特集>化石がシンボル 地質学者の家

10月24日ツーバイフォー住宅の日記念特集|アーカイブス わが家はツーバイフォー

化石がシンボル 地質学者の家 高山俊昭


写真:外観全景

▲噴水を中心にシンメトリーに配置されたイングリッシュガーデン風のアプローチには、小鳥たちが毎日のようにやってくる。

写真:山夫妻
▲ウッディヤードでご夫婦そろって。

変化に富んだ大屋根と緑豊かな庭が美しい高山様邸。このお宅のご主人は、超微古生物学を専門とする地質学者です。だからでしょうか、プランクトンの化石をモチーフとした円形ステンドグラス、藻類化石をデザイン化した噴水の水盤など、地質学者ならではのアイデアが盛りこまれていて、訪れる人を驚かせています。また、高山様はご専門の学術書に加え、音楽コラム集『他人に押しつけるわがまま』を出版するなど、執筆活動も積極的に行っておられます。今回はユニークな視点と愉快な文章で、ツーバイフォーの魅力をご執筆いただきました。

地質学者の“家”遍歴

地方の国立大学の教壇に立つようになったとき、四畳半一間のアパートを借りた。炊事場もトイレも共同、風呂は近くの銭湯という生活だった。駅前でタクシーに乗り、「M荘!」と言っただけで運転手は行き先を了解したという伝説があるくらい、オンボロアパートとして知られていた。それでも近くのD荘に比べ、M荘は市内第2位に甘んじていた。そして程なくそのD荘が火事で全焼し、わがアパートは栄えあるトップの座に着くこととなったのである。ちなみに第3位のN荘は、その後宮城県沖地震で倒壊してしまった。

残念ながらM荘は数年後に取り壊しとなり、今度は市内の繁華街に1LDKのアパートを借りた。それまでの生活に比較して夢のような毎日であったが、唯一の欠点は、このアパートがキャバレーの真向かいにあり、夜中にそのネオンのあかりで部屋の中が赤くなったり青くなったり、その妖艶な雰囲気が、独身の私には過激すぎることであった。

その後結婚し、閑静な住宅街にある六畳二間のアパートで新婚生活を始めたが、子どもも生まれ、さらに真夜中に学生が大挙して押しかけたりして、手狭なアパート生活も苦労が多かった。だからあれから三十年余り経ち、上京して小さな私立大学に再就職したのを機会に一戸建てのわが家を建てることになった時の歓びは、容易に想像いただけよう。


ツーバイフォー工法との出会い

そこでどうしたものかと思案して、ふと友人が大手不動産会社のトップに近い地位にいることを思い出した。大変誠実な男なので、彼に任せれば間違いないと思ったのである。したがってわが家をツーバイフォー工法で建てたのは、友人に頼んだら、たまたまそうなってしまったということなのだ。

さて彼が紹介してくれた傘下の住宅会社は、直ちに営業担当、設計コンサルタント、そしてインテリアコーディネーターの三人からなるプロジェクトチームを編成。その後私ども夫婦とこのチームとは、頻繁に会合を開くことになる。

最初の打ち合わせで、「どんな家を建てたいですか?」と聞かれた。妻は「掃除のしやすい家にしてほしい」と言い、それに対し設計コンサルタントが、「それでは部屋を丸くしましょう」と答えたのには笑ってしまった。幸い部屋は丸くはならなかったが、妻は四角い部屋を丸く掃くから、確かに掃除は楽であった。また明るく風通しの良い家をという妻の希望は、中庭を作りトップライトも作って実現した。

一方プロジェクトチームから出されたバリアフリーの提案は、高齢の私ども夫婦に対する心優しい配慮であろう。でも「ホームエレベーターは?」との話に、妻は即座に「要りません」と冷たく言い放った。「主人がエレベーターを使う様になったら、特別養護老人ホームに入れます」と言う妻の言い分に、チームは全員仰天し、その後の打ち合わせで、何故か私の意見を無視するようになった。


東京に“化石の家”が出現!
写真:藻類化石をイメージした面格子 写真:緑豊かな庭

▲塀には、ご主人の研究対象である藻類化石をイメージしたオリジナルデザインの面格子があしらわれている。

▲玄関の位置を斜め45度に振るなど、変化に富んだプランの建物。前面には季節の移ろいが存分に感じられる緑豊かな庭が広がる

写真:玄関ポーチ 写真:高山様デザインの噴水

▲玄関ポーチも広々。壁面に設けられたニッチには、季節の花がセンス良く飾られる。

▲高山様デザインの噴水。

写真:プランクトンをモチーフとしたステンドグラス 写真:エントランス 写真:三角階段
写真:書斎コーナー

▲書棚や机が機能的に配置された書斎コーナー。リビングとは袖壁で軽く仕切られているので、落ち着いた雰囲気となっている。

▲プランクトンの化石をモチーフとしたデザインのステンドグラスが、エントランスを優雅に演出している。

▲高山様の希望“映画『風とともに去りぬ』に出てくるような吹き抜け”に応えて設けられた三角階段が、エレガントな雰囲気をつくりだした。


もちろん私にだって夢がある。それなのに「映画『風とともに去りぬ』に出てくるような吹き抜けの玄関とスパイラルに上がる正面の階段、そして天井からは豪華なシャンデリアを!」という私の希望は、「お宅の予算では無理です」と一蹴されてしまった。自尊心を傷つけられた私に同情した設計コンサルタントが、それでもなんとか玄関を吹き抜けにし、スパイラルならぬ三角形に登る階段を考えてくれたことで、かろうじて私の面目は保たれたのである。

私のもう一つの夢はステンドグラスだった。そこで直径1.3メートルの円形のものを、玄関ホールの正面を仰ぎ見る位置に取り付けることになったが、ステンドグラスもその位の大きさになると特注だという。それなら自分でデザインしても良いかと聞くと、私の隠れた芸術的才能を知らないインテリアコーディネーターは、「おできになるならどうぞ」と冷たい返事だ。「それなら見ていろ!」とばかり、私が専門とする、顕微鏡下で見た微小なプランクトンの化石を図案化した。インテリアコーディネーターは「これ、コスモス?」とクビを傾げたが、私の研究者仲間は、誰もが肝を潰した。ネブラスカ・リンカーン大学のS・スポールディング博士は、「TOKYOに化石の家!」とオランダの学術雑誌に英文で紹介し、わが家は世界中の研究者に知れわたることとなったのである。

設計図はわれわれの希望を入れながら何度か引き直され、そのたびごとに夢が現実のものとなっていく。巻き尺をのばし、階段はこの幅で、入り口はこのあたりに、そしてこの壁紙ならこんな感じかな?と空想し、それが形となる歓びは無上のものだ。プロジェクトチームも私たちの希望を真摯にうけとめ、夢の実現に最大限の努力を払ってくれた。チームとの関係は極めて良好だったとし、とくにインテリアコーディネーターの素晴らしいセンスは、カーテンや壁紙や、照明器具などに発揮された。

完成したわが家のバリアフリーは、私たち夫婦がもう少し年をとったとき、その有り難みがわかるだろう。なんと脱衣場と浴室の境界さえ、段差がなくて平坦だ。だからといって安心はできない。なぜならその境目に、落とし穴のような大きな排水溝がある。いつもは簀の子を被せて平坦になっているのだが、妻が毎回の掃除が面倒だと、その簀の子を取り外してどこかに片づけてしまった。だから浴室に入るとき、ポッカリとあいたこの深い穴を、助走をつけてエイヤッと跳び越えなくてはならぬ。風呂に入るのも命がけだ。そのうちこの排水溝に落下して、脚の骨を折るのは必定。そして妻は歩けなくなった私を、特別養護老人ホームに入れるのだろう。


写真:リビング 写真:リビング

▲家族の気配が感じられるようにと、リビングと書斎コーナーは隣接した設計。リビングの大きな窓の外にはウッディヤードが続く。

▲リビング、ダイニング、キッチンが続く、家族集いの場所。オープンなスペースだが、高気密・高断熱の構造で、真夏も真冬も快適に過ごせる。

写真:主寝室 写真:地下のプレイルーム

▲主寝室には、やさしいトーンのクロスを壁に施した。枕元には間接照明が、くつろいだ時間を過ごせるよう配慮されている。

▲クラシック音楽に造詣の深いご主人のこだわり空間、地下のプレイルーム。音響の良さはもちろん、防音対策も万全。

予想以上の快適さと高性能

正直言ってツーバイフォーの長所を知ったのは、家が完成してからのことだ。2を4倍すると8で、ではこの数字にどんな神通力が秘められているのか?と、恥ずかしながら私の知識はその程度であった。

ツーバイフォーの長所の一つは柱のない大空間が作りやすいということらしいが、大きなステンドグラスを仰ぎ見る広い吹き抜けの玄関ができたのも、そのためかも知れぬ。またすきま風が入らず、気密性や断熱性がすぐれているのも長所だと言うなら、わが家は全館空調で、一年中春のような生活が楽しめるのもそのせいだろう。私の聴くステレオ音楽の大音響に妻は悲鳴をあげるが、外界の騒音は一切受け付けない。

ところで私は大学で地質学を講じてきた。しかし専門は古生物学で、地震に関しては素人同然である。だが世間ではそうは思うまい。地質学者の家が大地震で真っ先に倒壊したら、私の信用は地に墜ちるであろう。だから「ツーバイフォー工法は水平加重を壁全体で受けるために地震に強い」と聞いて、いま胸をなでおろす。

私は既に高齢で余命いくばくもなく、死ぬまでに大地震に見舞われることはあるまいとタカをくくっているところがある。その一方で、せっかくツーバイフォー工法で建てた家だ。大地震の結果がどうなるか、それだけは見届けて死にたいと、密かに期待もしているのである。


写真:高山俊昭氏 高山 俊昭 氏  略歴
1936年福島市生まれ。 1961年東北大学理学部地質学古生物学教室卒業。1964年ウィーン大学に留学後、オーストリア地質調査所で地質学を研究。専門は超微古生物学。金沢大学教授、同教養部長を経て現金沢大学名誉教授、NPO法人「豊かな地方を築く円卓会議」専務理事。理学博士。著書に『微古生物学中巻』『新版古生物学W』『微化石研究マニュアル』『学生版日本古生物図鑑』『のとの自然』『かがの自然』『古生物学事典』『海・潟・日本人』『講座/文明と環境10巻/海と文明』(いずれも共著)、『他人に押しつけるわがまま』などがある。



(一社)日本ツーバイフォー建築協会会報誌「ツーバイフォー」転載記事

 

 

前のページへ

ページの先頭へ