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10月24日ツーバイフォー住宅の日記念特集|アーカイブス わが家はツーバイフォー

車いす住宅 実践編 至れり尽くせりでない家づくり 佐野健一


私は、かれこれ15年前交通事故で脊髄損傷になったため車いす生活を余儀なくされました。事故の瞬間、天地をさまよったような気がしますが、幸いなことに命は取り留めました。その後、担ぎ込まれた病院の集中治療室で目を覚ましました。ベッドの傍らの両親の顔が今でも忘れられません。

傷害を負った直後はほとんどの方がそうだと思いますが、嘆き悲しみ、どうしてこんなことにと、落ち込みました。次第にそれを乗り越え、立ち直ってきますが、その過程で傷害を受け入れることが必要です。そして、趣味というか生き甲斐を見いだすことが大切です。私の場合、それは車いすバスケットでした。

家族へのメッセージ

リハビリをしているときは何とか社会復帰をしたいという一念で、親の励ましも受けて頑張れました。そこで得た思いを家族に手紙を書きました。

悩むことがあったら僕のことを思い出してね。その悩みは小さなことに思えてきっと乗り越えられるよ。

後日、親は私を励ましているうちに逆に励まされていることに気がついた、といいました。「励まし、励まされ」ということです。人生にはこういうことがあるものでしょう。

ツーバイフォーはエアコンが効きやすい

脊髄損傷になると体温調整力が落ちますから、エアコンは欠かせません。感覚的な言い方になりますが、ツーバイフォーはエアコンの効率がいいように思います。つまり暖まりやすく、さめにくいという特性を実感します。床暖房も直接歩行するわけではありませんが私にはあっています。エアコンのように直接体に風を当ててもらいたいと思うこともありますが、ほんわかさが快適です。このことは言い換えれば、気密性が高いということで しょうか。

7年目の建て替え

その後、リハビリに励んだ甲斐があり、2年後自宅に戻りました。それまでのツーバイフォーの自宅をバリアフリー住宅に建て替えてくれていました。もちろんツーバイフォーです。母は超合理主義者ですが、今回に限って無謀にも建て替えを望んだようです。父にしてみれば、築7年のツーバイフォーを壊すわけですから、現実にはローンが残るので、私の個室だけを車いす用にリフォームすればよい、と考えていたので相当悩んだようです。

決め手は、母の次の一言でした。「私たちも返済は大変だけど、建て替えは息子に対する頑張れというメッセージだ」

写真:外観全景

車いす住宅は面積が増える

参考になればと思い実体験を通じてのいくつかの雑感をお伝えします。

まず、一般に家全体の面積が増えることは避けられません。車いすは直線的に移動するだけでなく、回転を伴いますからどうしてもそのスペースが必要です。たとえば35坪程度の家なら45坪程度に増えます。新築当時、45坪だと言ったら、相手には大抵随分大きい家だなという印象を持たれました。でも豪邸でも何でもなく自然とそうなるのです。その理由はおって説明します。

車いす住宅は面積が増える

カーポートは、敷地や建物の面積、状況にもよりますが雨に濡れないですむように家の中に組み込む方式のビルトインカーポートがまず考えられます。しかしこれは1階の平面計画に大きな影響を及ぼします。先に書いたとおり、面積が増えざるを得ないのにカーポートでスペースを食ってしまうからです。

カーポートを設ける場合は、スペースは余分に必要です。人の乗り降りではなく車から車いすを出して、そこで移乗することになりますからどうしてもそのスペースが必要です。

車いすから玄関に入るのには油圧式昇降機が使えます。でも私は、心理的抵抗感が強く採用しませんでした。いかにも障害のある者、というイメージがあるのです。実際には昇降機の方が楽かなと思いますから、これは実は矛盾した話しです。

そこで、我が家の場合はたまたま敷地に余裕があったので、長いアプローチを設けましたが、そこには屋根はつけようという発想がありませんでした。雨の時にやや不自由です。車いすは両手でタイヤを回しますから傘をさせません。帽子でしのいでいます。アーケード風屋根がほしいと思うときもあります。

親はアプローチに植物を植えてくれました。車いす生活を余儀なくされると自然に接する機会が少し減りますから、その配慮には感謝しています。その植物を照らす外灯も気に入っています。

カーポートからの長いアプローチ

▲車からすぐにスロープに行けて便利です。カーポートから玄関までの長いアプローチ。
植物を植えてあり、車いす生活でも自然に接する機会があります。

玄関にはものがあふれる

玄関ドアは開き戸が便利です。玄関に限らず、建具は開き戸を原則とするほうがよいです。我が家は1階は全部開き戸です。

たたきは広くとりたいものです。そこにはものが溢れます。家族が増えると、くつに占領されます。1人で何足もあります。あきれるほど増えるものです。その上子供の野球、サッカー、バドミントンなどスポーツ用品が我がもの顔で、のさばります。普通の上がりがまちのような段差をつけられないので、その空間にくつを仕舞えないのもハンディです。

さらに我が家の2人の子供たちはなかなか自分のくつを端においてくれません。脱ぎっぱなしです。これはまあ、私のしつけの問題ではありますが。職場から疲れて帰宅したときは、ここだけの話しですがズックなら、踏んづけながら通ってしまうことも一再ならずあります。

玄関ホールも広く、を心がけてください。そこで回転することが多いです。その上我が家ではそこには、ハンガーが鎮座まします。そこには出勤の際の必需品が用意されています。歩けないので忘れ物をしてもいちいち部屋に戻るのが面倒ですから、ついついホールにものが集中しがちです。

居室はすぐに狭くなる

寝室は12畳ほどを確保してもらいましたが、すぐに狭くなりました。これから建てる人にはもっと広く、といいたいです。決して贅沢ではなく、自分の整理力のなさを棚に上げて言いますが、実際ものが溢れます。車いすは外出用、室内用のほか、私は車いすバスケットボールをしますからそれ用が加わります。ボール、筋トレのための道具類、ユニフォーム、くつなどなど。寝室以外に分散するといざ使う段取りになったときに不便です。健常者にとって見れば何でもないことでも、たとえ住宅内といっても移動はおっくうになります。ウオーキングクロゼットも欠かせません。タンスは使えません。車いすに座っての動作ですから高いところには手が届きません。

トイレは寝室につなげて下さい。これは必須です。エアコンは言うに及ばず、照明にもリモコンは欠かせません。

浴室も2倍

浴室はくつろぐスペースですから大切なポイントです。まず、車いすと同じ高さの洗い場が必要です。車いすからの移動を楽にするためです。洗い場と浴槽の縁はほぼ同じレベルを保ってください。そうしないと入浴に不便です。家族の洗い場は別にとります。

浴槽も一回り大きくしてください。車いすの場合、姿勢がほぼ一日固定していますから、そこで安らぎを得ます。通常の倍近いスペースをとることになります。脱衣スペースも車いすを回転させなければなりませんからそのスペースを確保してください。

至れり尽くせりでないほうがよい

部屋つくりの要諦は、決して至れり尽くせりにしない方がいいということかもしれません。たとえばいくら移動がおっくうといっても室内に冷蔵庫は置かないほうがいいでしょう。さすがに車いすからベットに移ったときにキッチンに行くのは面倒くさくなりますが、そうでなければキッチンにとりに行くほうがいいです。なぜなら、車いす生活は部屋にこもりがちですから、家族が集うリビングを通りながら、キッチンに行くと家族とのふれあいの機会が増えます。また、家族に持ってきてと頼めばいいのです。それはそれで会話が生じます。

バリアフリー設計基準というのは正確には知りませんが、たとえば実際は廊下は普通の幅で十分です。なぜなら車いすでは廊下を通りません。リビングを通ってキッチンに行きます。その方が前述したとおり家族と触れ合えます。廊下を通らなくてもすむように寝室からリビング、トイレ、洗面、浴室と移動できるようにプランニングしてください。

共働きゆえのリフォーム

写真:兄妹と従妹(リフォームしたキッチンで)
▲兄妹と従妹(リフォームしたキッチンで)

ラーメンくらいなら自分でも作ろうと思い、キッチンは車いすの回転ができるようにスペース的に余裕をとりました。またカウンターも若干低めにしました。

結婚後共働きになりましたから、時間の節約がキーポイントになりました。思い切って、リフォームをしました。食洗機と浴室乾燥機能を設けました。いずれも重宝しています。リフォームというのは連鎖的に希望が高まります。ついでにエアコンも省エネタイプに変更しました。

親のありがたさ

半身不随になって改めて親には感謝しました。人生が暗転したわけですから、はし以上重たいものは持たせない、とでも言うかのように何もかにも手伝ってもらいました。

運よくある市役所に就職できましたが、初月給で両親を伊豆に一泊旅行に招待しました。海岸沿いの漁師が営んでいる魚屋さんで正真正銘とれたての魚介類に舌鼓を打ちました。

続いてまた運よく結婚も出来ました。その報告をした時の両親の笑顔は忘れられません。

2階に逃げ込まれるのには閉口

そして運よく2人の子供にも恵まれました。ある時、長男をしかったときに、何でしかったのかはすっかり忘れてしまいましたが、2階に逃げ込んでしまいました。これには参りました。でも、今では妹ともども車いすを押してくれるし、4歳の女の子は必ず歩けるようになるからね、と慰めてくれることもあり、そんなときはうれしくなります。

小学4年の長男は野球少年で真っ黒に日焼けしてすっかり野球漬けです。幼稚園児の長女はまだまだ私にまとわりついてきます。妻とともに子供たちはそれぞれ存在感を発揮していて、そんな家族に囲まれて、生きる力が湧き、明日への力になります。




(一社)日本ツーバイフォー建築協会会報誌「ツーバイフォー」転載記事

 

 

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